「混合技法」について
工房主幹 川口起美雄

早見芸術学園造形研究所 「テンペラ・油彩工房」

顔料(pigment)
これはすべての絵具のもとになっているもので、有機顔料、無機顔料という分け方もありますが、
その基となる材料から、植物、鉱物、金属化合物といった分け方をしています。
大きさの異なる粒子からなる色の粉です。この顔料を展色剤(バインダー)で練ったものが絵具です。
 乾性油を主としたメディウムで練ると水彩絵具、乳剤で練るとテンペラ絵具です。 
乳剤は水と油が安定剤により混ざっている状態ですが、その安定剤には卵やカゼインといったものがあり、 
乳剤の組成の違いによって卵テンペラ、ガゼインテンペラといい分けています。    
フレスコ画は濡れた漆喰の上に水で溶いただけの顔料で描かれています。
 つまり絵具ではなく地の方に接着性があるわけです。
この場合、漆喰の乾きに合わせた制作が要求されます。
当然描ききれなかったり、あるいはさらに追いかけて描き込んでいく場合は、
接着力をもった絵具は必要になります。
また、フレスコ・セッコという乾いた漆喰壁に描く方法があります。
これも当然接着力を持った絵具で描かねばなりません。
そこで主に使われたのがテンペラ絵具です。
ルネサンスの頃、絵画は壁からイーゼルの上へと降りてきました。
壁のかわりに板が基底剤として使われだし、漆喰のかわりに膠や澱粉糊を接着剤として
石膏、白亜が練られ、征目板でつくられたパネルに塗られて地となりました。
絵具の方も工房によりテンペラ乳剤の処方が多く試され、求める絵肌に応じて変化していったのです。
油絵具もこの頃整った形を持つようになり確立されます。
ボッティチェルリの絵肌のように油分の多いテンペラ絵具の延長線上に、
表れてきたと考えてもよいでしょうし、
展色剤(バインダー)として、乳剤、膠水、油メディウムと繰り返すうちに、
柔軟で幅をもつ油絵具に表現の可能性をみていったのだと考えてもよいと思います。
ルネサンス期の前後に渡り、テンペラ絵具から油絵具へとボリュームが移っていくなかで、
油彩の持つ複雑な仕組みを最大限に引き出すために、テンペラ絵具と油絵具が併用された技法、
これが混合技法です。
ここではテンペラ絵具が、油絵具という素材を料理するための塩のような役目を果たしているわけです。

もっとも、当時の画家たちの意識は、智恵の集積としてのテンペラ技法を駆使しながら、
油彩で少しずつその幅を切り拡げていったと考えた方が自然かもしれません。
テンペラ絵具と油絵具の特性が、最大限にその特徴を挙げるならば、
形と色の分離、視覚的灰色、色だしのための、あるいはテクスチャー描き分けのための、
濡れた樹脂油絵具上のテンペラ絵具の展開、エマイユ効果、樹脂ワニスの働き等、いくつも考えられます。
が、むしろ私たちにとっては、この技法のなかに500年の時を流れてきた、
ヨーロッパの画家たちの思考の方法をみてとれることの方が大きく作用するのではないでしょうか。
時代とともにテンペラ絵具が油絵具に置き換えられ、またある時期それが観念的に使われたことが
あったとしても、混合技法の水脈は私たちの足許まで流れてきたのです。

混合技法の「技法」とは、「技術」に「意識」という方向が加わって初めて成立しうるものだ
ということを確認しておきたいと思います。
よい作品には、技法があるといわれる所以です。