- 発表者:平田行雄
- 第20号「創作」 『ニルバーナ(涅槃)-深い眠り』
F6号(318x409) キャンバスに卵黄テンペラ
友人宅で、この仏頭をみたとき、その表情の優しさ、美しさに打たれた。人間の祈りの深さと、その祈りが創り出した時空を超越する美しさが、この絵を描いた動機である。
「涅槃(ニルバーナ)」という題名は、胴体を失って横たわっている姿からの連想である。おそらく、この像は坐像であったろうと思われるが、胴体を失った無残な姿は、横臥する涅槃像以上に、涅槃を感じさせた。その感じをどう表現するか、いろいろ思い悩んだが、結局、白布で仏頭をやわらかく包みこむ構図とし、その白さと静謐感を強調するために暗色の枯れた蓮を添えることにした。Nirvanaという絵のタイトルやサインの位置も、蓮とともに画面にリズムをつくりだすように配置した。
作画上の苦労は、やはり白布の表現にあった。チタニューム・ホワイトを、いくら重ねても、イメージどおりの輝くような白にならない。何回も何回も、乾くのを待ちきれない思いで塗り重ねて、力つきて筆をおいた。また、顔の部分も、下層が明るかったためか、いくら陰影を強調してもうまくいかず、思い切っていったん灰色で塗りつぶして描き直したら、ほぼイメージ通りの存在感を表現することができた。
「深い眠り-a deep sleep」というサブタイトルは、しばらく経って、再生を願う「春の言葉 ?les mots du printemps」という次作を構想してからつけたものである。
(指導・十二芳明)